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2023.09.06
10周年記念公演に寄せて
勅使川原三郎
ー 夏を走り始め、夏雲に乗り、夏を飛び越える ー

10周年パンフレットol

 
2013年夏に開館したカラス アパラタスは、10年が過ぎ11年目に入りました。開館初回の公演「真夏の夜の犬」の直後のトーク(今もその習慣はつづいています)で、私は今後1年2年と年月を重ね、いつかは10年が過ぎて、その時のトークではある感慨が湧いて来るのだろうと話しました。まさに本日その気持ちをそのままでに皆様に挨拶できる事を面白く、そして少し感動して思い起こすのです。時とはなんと不思議なのでしょう。いつ生まれたかは知らないけれど、1年2年と歳を重ねて大人になりました。なんと時はありがたいのでしょう。ただ思いのままに準備をして、困難を振り払い目的を達成する。すると、いつも私はそうなのですが、えっ、これで良かったのか、始める時は何もわからなかったのに、目をつぶって全力疾走する時のように、時は過ぎ、唐突におでこをぶつけるように、思っていた事が実現している。そんなふうに私、いや制作スタッフも一緒に私たちは、ほとんど盲目的に全力で走ってきました。歩みというよりは、走りつづけた10年でした。この間、様々な方々からスタッフとして協力の域を超えるお力をいただきました。今ここで関わっていただいた全ての方々に深く感謝いたします。振り返れば、開館のほぼ1年前から準備を始め、昔は地下駐車場であった土地を大改造して、下水道の突貫工事に始まり全ての床面の張り替え、舞台や楽屋、ギャラリー等々、語り尽くせない労力を結集して、みんなの力を合わせ試行錯誤を繰り返して、開館に漕ぎ着けました。そうです、まるで行き先知れぬ長い航海の始まりでした。しかしメンバー全員は覚悟を固くした最高のチームワークによって実現したのです。以前、何作も原作を用いて作品を作った作家ブルーノ シュルツの一編「夢の共和国」そのままに半ば映画館、半ばコンサートホール、半ば劇場という、ある男の理想郷としての「夢の共和国」は実現したのでした。それが荻窪の「カラス アパラタス」です。アパラタスは原語では道具あるいは装置の意味です。ここは私たちにとって生きるための装置、つまり私たち自身の身体そのものと言えます。単なる例えではなく、アパラタスは私たちの身体です。皆様ご来場してくださいます方々は、身体にとっての血液です。この地下の劇場身体は皆様をと共にあり、共に呼吸します。作品を通じて皆様と結ばれるのです。私は本気でそう信じています。私
たちカラスは、今後もアパラタスを整えて皆様のご来場をお待ちしています。私は作品を作るのを決して止めません。作品を作ることが何よりの喜びだからです。作品を作ることは私の生業です。
アパラタスは、これからも大いに呼吸しては胸の高鳴りを打楽器にして、全身の血をたぎらせて新たな時に向かって踊り、走りつづけます。これからもどうぞよろしくお願いします。皆様にとりましては、来たるべき時がより良く素晴らしい人生でありますようにお祈り申し上げます。
                             2023年9月記