
リハーサル中の佐東利穂子が語る
新作「紫日記」
ー原案は佐東さんということですが、今回の新作はどのようなところから着想を得られたのでしょうか?
佐東利穂子:もののあわれ、ということにはずっと興味がありました。
あくまで私の解釈としてですが、言い表しきれない繊細な感情の移ろい。見ること、聞くこと、感じること、の小さな感動の連なりによる心の振動。
「もの」とは、明らかではない存在。
物質的でありながら形がないもの。
そして、「もの」があることによってそこに内面の動きが映し出される。
自分ではない何かが語りだすことで自分は煙のように消えていき、全く違うものがたりが始まる。
そんなことを想像しました。
ー「紫日記」というタイトルにどのような意味が込められているのでしょうか?紫式部とも関係があるのでしょうか?
佐東:紫という色には移ろいを感じます。煙のように移ろいゆく時間や想い。そして紫式部の歌もこの作品を作りたいと思ったきっかけの一つです。
めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に
雲隠れにし 夜半の月かな
あまりに有名な歌ですが、ここには気持ちは表には現れていません。
しかし内的な思いが見え隠れしていて、その先はどこへ向かっているのか分からない。
私にはそこから何かが始まる予感がするのです。
ものがたりではなく日記の中にこそものがたりが潜み、見えない想いが常に見え隠れしているのではないかと感じます。
日記とは日々のことであり、些細なことであり、今のことでも過去のことでもないもの。
そこにたなびいているような浮かんでいるような、どこにも所属しないもの。
紫の雲や煙のような誰のものでもないものがたり。
ー現在創作進行中と思いますが、どのような音楽を使用されるのでしょうか?また、なぜその音楽を選ばれたのでしょうか?
佐東:現在まだ創作中ですが、物理的に自分の周りの空気の動きと時間の流れや停滞を感じられるような、そんな音を求めています。
私が私であることから離れるために。
ドビュッシー、リゲティ、メシアン、アルヴォ・ペルトなどや、自分で作った音源を混ぜて音空間を構築しています。
*アパラタスでのリハーサルより


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