読者の皆様へ
新国立劇場でのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」の初演を終えた直後に、私と佐東利穂子、そして川村美恵は、ドバイ経由でルーマニアの地方都市クライオーヴァに移動しました。シェイクスピア・フェスティバルに参加し、「オフィーリア」を上演しました。荻窪のアパラタスで初演した作品がヨーロッパに旅立ち、素晴らしい成果を挙げました。満員の観客全員総立ちのスタンディングオベーションになり、最高の盛り上がりのなか幕を閉じました。公演には植田浩在ルーマニア日本大使が首都ブカレストから5時間をかけてわざわざお越しくださいました。食事にも招いていただき楽しくも深いお話の交換をさせていただきました。清々しい夜でありました。
公演後すぐに、次の「トリスタンとイゾルデ」上演の為、ロンドンに飛びました。初めて公演をしたのが1980年代終わりの頃で、「BONES IN PAGES」の公演中に東ドイツのホーネッカー議長が失脚したというニュースが流れ、公演取材にくる日本人記者さんが急遽、政治問題の方へ向かうという知らせを受けたのをよく覚えています。その直後にベルリンの東西を分ける壁が崩れ世界情勢は大きく転換しました。
余談でしたが、ロンドンにはその後に何度も公演し多くの作品を上演してきました。3年前にもハイドパークの近くのノッティングヒルにあるコロネット劇場で「白痴」の長期公演をしましたが、コロナ問題による閉ざされた3年を経て、今回は「トリスタンとイゾルデ」を上演しています。今日が計8回公演の6日目です。初日から素晴らしい公演がつづいています。我ながらそう表現してしまうのを許してください。
本当にダンスとして自覚するのは、音楽とダンスの深く力強いつながりです。特に佐東利穂子のダンスの成長はきめ細かく身体を駆使しながらも内面から現れ出る感情が、表現主義的ではないダンスの本質そのものと言えるレベルにまで達していると感じさせます。舞台上で照明と装置との絡みによる視覚の展開を超える音楽と我々のダンスする身体とが作るものは、やはり我々独自のものだと改めて自覚するのです。今まさに生まれるダンス、そしてその生命の誕生のようなダンスが成長しつづけることを観客と共有できる体験は、喜び以外のものではありません。日々そのように細かくも広がりつづけるダンスの波を連動させながら徐々に大きなうねりになる作品を踊れることを、ありがたいと感じています。
今は昼過ぎですが、今夜の公演を含めてあと3回の公演を大事に思い切り踊ります。また近々書きます。
皆様におきましては、どうぞお体に気をつけて健やかにお過ごしください。
ではまた、ロンドンより。
勅使川原三郎
2022年6月8日
写真 ロンドンのコロネット劇場外観と劇場内の通路
(三年前の「白痴」上演時に撮影)
撮影 勅使川原三郎
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