2018年9月30日

現在、私はパリに滞在しています。
アパラタスでの「火傷の季節」と「幻」の2つの初演公演を終えた
直後にフランスに移動しました。まずリヨンのフィルハーモニーオー
ケストラとベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」を佐東利穂子と私の
デュエット作品として踊りました。
全5楽章55分の大曲で、多くの人が大変な挑戦だと噂されていました
が、公演の成果は素晴らしかったと報告させていただきます。
これはフィルハーモニーの2018〜19シーズンのオープニングとリヨン
ダンスビエンナーレの招待創作作品として初演されたものです。
音楽とダンスの力強い融合とダンスの新たな可能性を示唆するものと
自覚しています。巨大なオーディトリアム満杯の観客の盛大な拍手と
歓声を得て、この稀有なプロジェクトが成功したことをフェスティバル
のスタッフ共々大いに喜びを分かち合いました。このプロジェクトは
今後もつづき、来年はパリのフィルハーモニーのオーディトリアムや
他の都市でも再演が予定されています。
 
その後、ここパリに移動してシャイヨー劇場での「白痴」のヨーロッパ
初演全8公演で、今日はその4日目になります。まさにアパラタスで2年
前に生まれた作品は、今年6月に再演し成長を感じたばかりでしたが、
今私はこの作品がまた育ってきたという強い実感があります。音楽構成
を少し変え佐東利穂子のパートを増やす等の変更も良かったと思います。
以前よりも内面深くに向かう内容になっています。観客の中には何人も
の方々が涙を流すほど感じ入ってくださいました。涙が出ることが良い
と私は言いたいではなく、身体表現と言われるダンスには内面の深い
ところまで届く力を持ちうるのだということを実際に表し語る人がいる
という事実に向き合うべきだと思うのです。
時々、ダンスの娯楽性や前衛性のようなことを口にされる方がいますが、
私がやりたいことは一般共通理解されるダンスではありません。人間
が言葉で表現している内容や世界観を含めて、単なる意味伝達のため
ではありません。公演で見聞きする体験によって「人間が生に何を求め、
何を向かわせているか」を問えることを表したいと私は思っています。
ドストエフスキー原作「白痴」がダンス作品になる時、小説から飛翔
する内容のエッセンスが身体化されるのです。逆に言えば小説の身体化
によって過去の文学と現在の身体(私たちの)を結びつけ溶け合わせる
ことができるのだと感じました。
 
パリでの「白痴」を来週までつづけた後、私たちはイタリアに飛び、
ミラノで佐東利穂子のソロ「SHE」、そしてフェラーラでは「白痴」
の再演をします。
 
今後も公演ツアーの報告をします。
今日はここまで。
日本では台風により天候不順のようですが、どうぞ気をつけて。
そして、その後の美しい秋を、日本晴れを天高く仰げますように。
 

                      勅使川原三郎
                       2018/9/30
                       [メールマガジンNo.1148より]

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