2018年8月18日

No.53_アウトライン-01
10歳の夏、私は右肩に大きな火傷をした。母に連れられて大急ぎで
病院に行き診てもらった。医師が扱うピンセットは肩の皮膚をいとも
簡単にぺろり剥いた。その跡は数カ所に水泡がある激しいケロイド状
になっていて、翌日から患部に光線を当てる紫外線治療が始まった。
独特の冷たい光を数分間当てるのですが、その冷んやりした光は独特
の匂いを放つ。私は一種恍惚状態になり静かな病室にうっとりと佇む。
治療が終わると早く明日にならないかと待ちわびて、冷たい匂いが鼻
から離れず、秘密の冷たい光線を浴びている特殊な身体の所有者とし
ての喜びを隠し持ち、火傷をして良かったと思いました。
後年知るのですが、それはオゾンの匂いで、真夏の強い日差しの影に
微風のようにあの匂いが通ることがあります。
それは遠い日の古い記憶ではなく何度でも蘇る美しい光の匂いであり、
私にとっては「美」といえます。不思議な光線の冷たい匂いと熱い
皮膚とがもたらした冷たい快感で、それが私にとっての「夏」でした。
つんのめりながら「火傷の季節」で始まった6年目、不可解な日々を
転がし転がり転がされアパラタスはもっともっとアップデートします!
 
                       勅使川原三郎
                       2018/8/18
                       [メールマガジンNo.1122より]

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