東京芸術劇場で「ロスト イン ダンス」と「月に憑かれたピエロ」の
世界初演初日。両方とも以前パフォーマンスとして公演したことは
ありますが、劇場の公演作品として公式に創作としては初演です。
多くの努力と多くの人々の協力の下に良い準備を重ねることができて
初めて仕事は完了する。それを身をもって深く感じています。なんて
素晴らしい創作プロセスを経てきたのだろう。そしてなんて清々しい
公演後の気分だろう。この夜の楽しさは格別です。シェーンベルクの
音楽は世間一般には「難しい」と言われますが、この言葉ほどいい加減
な表現はないでしょう。あのひとは難しいとか大体が良い意味ではなく
つまらない対象に向けられては、阻害しようという意図があって私は
嫌いな表現です。
「月に憑かれたピエロ」の音楽がもつ豊かさは時を経て、時代を越えて
響く魅力に溢れています。長年の望みだったこの曲をダンス作品にする
夢が叶いました。音楽にひきつけられて私は多くのことを学びましたが、
やはり作品化する目的によって私の集中する仕事の仕方は大いに勇気づけ
られ、不可能であったことがいつしか達成している現実に出会うことが
できたのです。
そんな楽しいことはありません。まさに音楽の贈り物であります。
この新作の前に「ロスト イン ダンス」を佐東利穂子を中心に踊りまし
た。佐東利穂子のダンスへの献身の純真な力に比喩をつけることはでき
ません。ただただ私は総体的な指示を出し、動きへの導きを簡素に与えた
だけですが、彼女はどこから来るかわからない見えない具体性を湧き立た
せつづけるのでした。
美という言葉がもつ一般性や個人趣味的な狭い観念が手垢のついたものを
多く見せられてきた者たちにとって、疑いの斜めの目つきになるものです。
しかし彼女から感じる美は本物です。その一言に尽きます。このダンス作品
は、その言葉一つに尽きます。
僭越ながら、そのように言わせていただきます。
今日から学び、勇気を持って明日の二日目の舞台を務めることを
ここに誓います。
勅使川原三郎
2018/12/2
[メールマガジンNo.1190より]
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