2016年10月14日

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「SHE」 佐東利穂子のダンス
 
 
SHE が初演された時、私は佐東利穂子というダンサーにな
ぞなぞを掛けていたように記憶してます。
 
このソロ作品が、彼女であるためには何が SHE であるのか
と。作品は佐東利穂子自身がその彼女を探そうとする成長記
であったのかもしれません。作品中、「私の性質はその本性
を失った」という言葉が出てきます。それはひとりの人間の
成長の証なのかもしれないし、人生のその時々に襲う「未知
なる対面」なのかもしれないのです。
 
ヨーロッパでの公演の際、何人もの観客がその冷静に展開す
るダンスに涙したのはなぜか、くっきりとした身体が動き、
止まる。その時、輪郭を失くした人間と精神との対話が初め
て起こる。その言葉を超えた対話を人々は聴いていたのでは
ないでしょうか。それこそダンスであると佐東利穂子からす
こし遊離した彼女は表したのかもしれません。
 
SHE の再演はこの上なく意外で不思議な気持ちを私に呼び起
こさせるのです 
                  2016/10/14 勅使川原三郎 
                   [メールマガジンNo.597より]

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