創作メモ
「アダージョ」 について

音楽から送られたゆるやかな呼吸の波は、身体を失うかのようにアダージョと一体になり溶ける。
どこかに行くわけではない。ここからここへ向かうのだ。心臓は浮遊し我を失いここに舞い降りる。
時は経ち彼らは別の時であるここを離れここに命は再生する。
ふたたび生まれた彼らはどこにでも飛び、すでにそこにいない身体と二重になる。 
音楽はほとんど消え去り、アダージョだけがここに浮遊する。
なんの保証もない生命としてのアダージョ。
ただゆるやかさだけがある。
そして消え、消えると現れる無、それはほとんど沈黙の叫びなのだ。
しかし、全くそれは定かではないし無いということへどこまでも向かうのだ。
 
勅使川原三郎
 
No.88アウトラインなし-02

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