「静か」

美しいもの、美、美しさを求めるってなんだろう。
ある人が人間の身体は心、魂、精神の単なる入れ物だと話していた。
私はダンスという身体を使って身体の心に起こり感じることを外側に出す、現れる仕事をしている。身体の外側と内側とが心に何かを響かせることに従う、それがダンスだ。絵を描くのも同じだ。私は近年、もっと言えば最近、ますます純粋に心の中に響くこと、現れること、見えてくることに興味をもち、心の中の世界を広く歩き周りたいと思う。外側から、遠くからやってくること、外側にあることを純粋に新鮮に感じとりたい。心と魂こそ私である。しかし身体自体も実は心と魂から浮かび上がるものなのだ。空気も身体ということと同じだ。しかし身体という外と接している外側が無くなっても、私の心と魂はありつづける。私は美、美しいもの、美しさになる。
次のアップデートダンスは「静か」。この作品は再演であることを強く意識して臨む。過去から連なる流れとして反未来的な作品にしたい。これもまた私にとって大切な歩みになる。「静か」は新しいや古いには無関係の薄い半透明の重なりが現す時、時間と考える。
通常、再演する作品は、新たに生まれると考えるが、この「静か」は、過去から力を得て、継続する流れを受け取り、丁寧に大胆に厚みを生み出したいと思う。薄さこそ、一重一重の流れる時に変容させる力だと。そこに生命が生まれつづける。時とはそんな力を与えてくれるものだろう。
静けさが溢れる「静か」にどうぞご来場ください。
勅使川原三郎

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