Works / 活動紹介

静か
無音が構成する時間とダンス

出演 構成 照明:勅使川原三郎
出演:佐東利穂子
照明技術:清水裕樹(ハロ)
主催:KARAS
特別提携:シアターX(カイ)
上演時間:60分
公演歴:2016年3月 カラス・アパラタス
    2016年5月 東京・両国 シアターX(カイ)
    2017年7月 カラス・アパラタス
沈黙につつまれる身体。
静かは、ただ音が無いのではなく
静かとは、無音の力によって生まれた動きによって生命に
静寂を与えることではないかと思います。
無音は、観客の方々と共につくりだすもので、
劇場はそれまでにない時間感覚に満たされ、
身体はいままでに無い特殊な感覚になります。
ダンス「静か」は、保証も補足もなく、
無音の力によってのみ生み出されるダンスです。
実感以外の手だてがない異質な時空の延長による
新たなダンスへの接近です。
                勅使川原三郎
ギャラリー
レビュー(抜粋)
「沈黙が生む甘美な体験」岡見さえ氏
・ 産経新聞
ダンスとは音楽のリズムで体を動かし、メロディーの喚起する感情を身ぶりで示すものという無邪気な考えを、勅使川原三郎の振り付け・演出・照明による、この約1時間のデュオは問い直す。客席の近い小劇場の舞台に男女が左右に並んで立つ。目を閉じて立つ勅使川原の傍らで、佐東利穂子が腕の大きな旋回で鋭く空を切り、柔軟な足腰と細かな足さばきで床を滑らかに移動していく。無音の空間には予定調和的なユニゾン(同一の動き)もコンタクトもない。前後左右に位置を変えながら、速さと緩やかさ、軽さと重さ、内への集中と外への開放が相対する身体、動きを繰り2人は別々に緊張に満ちた踊りを続けるが、違和感なく融けあい、突如、動きが同期する瞬間すら訪れる。無音の中で対話し、環境から受け取った全感覚を身体で可視化している。
沈黙は踊り手の衣擦れや息遣いを聴かせ、この微かな音とともに出現する動きに注目させ、強力に観客を舞踊に引き込む。すると、高速で空間をよぎる舞いは時間の流れ、固く重厚な動きを間欠的に繰り出す身体は凝結した瞬間の姿として、観客に現れる。時が手触りや質量をもって近くされ、同じ感触の記憶が蘇る、それは甘美な感覚だ。音楽のないダンスは時間への従属を止め、場を共有するすべての人の生きる時間を取り込み、自ら豊かな時間を創造する。舞踊界の世界的巨匠による一つの達成であり、萌芽である。
上坂 樹 氏(舞踊ジャーナリスト)
何かを希求し、自らを解き放とうとする佐東の動きが渦の外向きのエネルギー(遠心力)だとすれば、極度に抑制された勅使川原の動きは渦の内側に向かうエネルギー(求心力)だ。 いつしか二つの身体は朧(おぼろ)になり、ある時は薄明かりの中でシルエットと化し、またある時は床に映る影となる。こうして、相反するエネルギーは錯綜しつつ無限の時の流れを生み出してゆく。最後に、暗転の間際で二人の両手が無意識に呼応するかのように上方に靡(なび)いた時、私は鳥肌が立つほどの官能を禁じえなかった。(...中略)「無音のダンス」は、自らの身体の底にある音楽を呼び出す試みとも取れよう。
だから「無音のダンス」は、「無音の中から聴こえてくるダンス」でもある。
高橋彩子氏 (ライター) Twitterより転載[@pluiedete]
何かに突き動かされるが如き激しさを交えつつ、脈を辿るように静かに緩やかに。日頃目にしない生物の1日或は一生、さらに死後をも観る心地に。無音だからこそ雄弁な身体に見入り、こちらの感覚も研ぎ澄まされる贅沢な1時間。